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赤い公園『純情ランドセル』

そもそもこのブログを始めるきっかけは、このバンドがメジャーデビューするからだったんだよなぁ... んで突貫工事で開設したという。


純情ランドセル(初回限定盤)(DVD付)

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2012年デビューの女性4人組バンドによる、自主制作盤以降で、やっと、やっと諸手を挙げて賞賛できるようになった3rdアルバム。

自主盤『ブレーメンとあるく』はJames Blakeや坂本慎太郎ソロ等を押し退けて、自分にとっては圧倒的に2011年の年間ベストであった。まぁ純粋に音源の評価だけじゃなくて、メディアに頼らず自分で見つけたとか、まだキャパ200とかでライブしてる時点でこの内容、というのも加味してたきらいもあるけど。

しかしそれほどお熱になっていても、メジャー2枚目のミニアルバムである白盤で急激に冷めてしまった。明らかに全体の音が軽く、ジャストミートに気持ち悪く聴こえるからだ。まるで筋少の『エリーゼのために』みたいだなぁと思ったり(曲は悪くないけどサウンドプロダクションがどうも...っていう)。その後メインソングライター兼Gt.津野が体調不良で5ヶ月程休止し、復活ライブの中継を観たが、フロアが何故かめっちゃロキノンノリと化していてライブも行く気が失せる(少なくとも最後に行った白盤レコ発の代官山UNITとはえらく様変わりしてた)。そして暫くしたのちリリースされた1stアルバムも、ミューマガの年間ベストにも入った2ndも、どうも前述の感想が拭えなくて全く乗れず。特に2ndに再録されていて、自主制作盤ではフェイバリットトラックだった「私」にはとてつもなくガッカリさせられた。相変わらず音が軽いのもそうだけど、あの最後のサビで半音転調するのはもはやギャグとしか思えない...

と、もどかしさを感じつつ、『ブレーメンとあるく』はただの初期衝動まぐれパターンだったのかなぁ...と半ば諦めていたところに、今までの不信感を一気に払拭するアルバムが。それが今作『純情ランドセル』だ。


白盤〜2ndと、今作で異なる点。それは散々グチグチ言ってきた通りの音の軽さが無くなったことだ。今まではプロデューサーの問題かと思っていたが、よく考えるとどうも違う。自主盤も最初に違和感を抱いた白盤も共にセルフプロデュースだが音像が違うし、2ndと今作では亀田誠治蔦谷好位置などの多数のプロデューサーが関わってるが、やはり異なる。ということは問題は誰のプロデュースということではないということだ。どうやら今作ではマスタリングをグラミー総ナメのトム・コインが担当したとのことなので、もしかしてそれが良い方向に行ったということなんだろうか...

そしてアルバムの方向性としては5年の歳月が経っただけに、自主盤と今作はほぼ別物となっている。『ブレーメンとあるく』はバンド史上でも2作品目なのだが、全体的にシリアスでヒリヒリするムードが支配する中、コーラスワーク、1曲に対する展開の詰め込み具合、更にそんな雰囲気でも戯けてみせる怖いもの知らずのユーモア等、既にこなれてる様はとても新人とは思えなく、恐ろしさすら感じた。対して『純情ランドセル』はというと、明らかに外へと開かれていている。ちょっとしたユーモアというのは共通しているが、こちらの場合はあくまでも陽性な雰囲気の中での話。そして比べてみると嫌でも分かるが、余りにもあっけらかんとポップなのだ。丸くなったという意味ではもちろんない。それが何を意図するのかというと...


•目指せ!じぇいぽっぱー!

上の文言は、津野がTwitterのbio欄に載せてあるものである。

2015年にインディー/メジャー問わず席巻したキーワードは、「ブラックミュージック」と「J-POP」であることには異論は無いだろう。そして年末に星野源がその両方を兼ね備えた『YELLOW DANCER』で一先ずひと段落したかと思えた。しかし今年に入ってもまだまだ続いてるようで、前者は岡村靖幸『幸福』、そして後者は赤い公園『純情ランドセル』がそれぞれ2016年の話題作の一つになり得るのではないだろうか。

2013年のSMAPへの楽曲提供は言うに及ばず、同年からシングルのカップリングでJ-POPのスタンダードナンバーをカバーしてきた事実からは、津野のJ-POP志向が伺える。そして今年のアルバムリリース。クッッッソ俗な言い方をすると、「時代が追いついた」とかいうやつだろう。更に入れ込んだ物言いをすると、2011年の自主盤にはJ-POP要素は見受けられなかったのに2013年の1stからそれを取り込んでたということは時代を読んでいた、のか?(でも黒盤と白盤ではキッチリとポップ要素の有無を分けてたしさすがに買いかぶり過ぎだよなぁ)

ところで「黄色い花」が星野源「SUN」のパクリだと一部で話題になってた(てかつべのコメ欄)が、そもそも「SUN」自体がマイコー「Rock With You」のパクリ、というか"引用"である。これはアジカン後藤が折に触れて言ってるが、ポップミュージックに於いて縦のツリー化は重要なことで、要は敬意を持った遊び心の一つでしょーよ。それを鬼の首を取ったようにパクリパクリってのもねぇ...そんなん言ってる輩はA/R/T/-/S/C/H/O/O/Lなんか聴いたら憤死するんじゃないかしら。それとパクったパクらないの事実より大事なのは、"どうパクるか"であり、自分は「SUN」より「黄色い花」の方がカッコ良く"引用"していて好き。あとアジカン自体はそんなに。


・(nice vocal)

自主盤と今作での違いはJ-POP志向と、もう一つ、Vo.佐藤が見違えるほど上手くなったことだ。自分にとって上手いボーカリストとは、良い声だけではなく、声色を使い分けられる人間だ。例えば時代もジャンルも接点は無いが、PiLの1stで高笑いしながら「I wish I could dieeeeeeeeee」と悪意の塊でもって金切り声をあげ散らしたと思ったら、次の曲ではまるで原稿読みの如くひどく冷血な棒読みへと徹するジョンライドン。「アンタ気に喰わないっ!」の咆哮を機にけたたましいアフロビートが轟きつつも、「日本人って暗いね 性格が暗いね」と自意識を飼い馴らしたような唄い方の末、「思いつくままに喋り続けろ」と勇猛にアジる江戸アケミ。そしてボイスチェンジャーで幼い子供の声を演じつつ、野田努の言葉を借りると「ものすごい本気とものすごい冗談のあいだを素早く往復している」神聖かまってちゃん・の子。もちろん佐藤千明は全くこの系譜では無いが、今作においては「オイラ」という一人称も違和感が無いなと思った次の曲では、女性らしいアンニュイなニュアンスで唄い上げる。また、J-POP然としたKAWAii別の女性らしさを醸し出した矢先に、何とも素っ頓狂なボーカルを繰り出す。自主盤と聴き比べると(今まではそこまで気にはならなかったが)一本調子なボーカリゼーションとはまるで別人みたいである。


・BNT

『純情ランドセル』で1曲選ぶとしたら、「あなたのあのこ、いけないわたし」が真っ先に挙がる。出だしでさり気なく変拍子をかますも、なんとも胸がすくJ-POP!90年代の雰囲気を2016年へと持ち出して来てアップデートしたかのようだ。詞の内容は嫉妬してる女の子の心情だが、佐藤のポップソングマナーに測ったガーリーで瑞々しいボーカリゼーションと「地団駄ふんでる」というフレーズで結果的にキュートになっている。ブレイクでキック4つ鳴らしても嫌味にならないのもそんな雰囲気の為せる技か。こんな曲をシングルではなくアルバム用に持ってく余裕があるからこそ、SMAPモーニング娘。にグッドポップミュージックを提供できるのかとか勝手に納得したり。

次に好きなのは「ショートホープ」。こちらは「あなたのあのこ〜」の女性らしさとは異なる気だるさを匂わせるボーカルでいて、R&Bの曲調とマッチしている。長く延ばされたアウトロで行われるギターとピアノの掛け合いも一興。津野の世代でJ-POPといえば宇多田ヒカルやSPEED等のR&Bを昇華したものが多かったのではないかと思ったが、この種の曲はこれだけだった。おそらく彼女が好むJ-POPというのは、日常にさっと手を差し伸べるグッドポップミュージック、言い換えれば"KOIKI"な曲なんだろう。

他にはインタールード的に差し込まれている「西東京」、「喧嘩」がおもしろい。レペゼン立川の赤い公園によるローカルネタは元・田無市民的にはヒット。しかし立川と田無って割と距離離れてるのにも関わらずそれでも田無タワーをモチーフにしてるのが、西東京は何も無いという事実を物語っているわけで... 2バスでドカスカだし、「オイラ」だし、良いヤケクソ具合。後者もネタっぽい趣きで、ドラムの崩し方に彼女らと親交深い進行方向別通行区分ぽさを少し感じたり。そして鶏の首を絞めたような佐藤のボーカリゼーション。この真っ当なJ-POPからフリーキーにまでいける幅広さが、このバンドを一筋縄では行かなくさせる。


・Track Order

今作ではコンセプトは無かったと言うが、アルバムの曲順が何とも素晴らしい。なので掻い摘んでみる。まずサイケな「ボール」で不穏に始まり、シングル「Canvas」で"じぇいぽっぱー"として最初の見せ場を作る。「西東京」で悪ふざけながらも場面チェンジをし、高速BPMからアルバム中盤らしいグッとテンポを落とした「ショートホープ」。このギャップよ!更にドープな「デイドリーム」からの「あなたのあのこ〜」はまるで夢から醒めたようなチャーミングなJ-POP、からの「喧嘩」でまた悪ふざけしながらの場面展開。「14」はめっちゃロキがノンしてる。曲名通り中二病なんだろう。正直ここが「1,2,3,4」だったら完璧ではあったんだけど、まぁ必要悪か... そのまま速い曲で繋げると思いきや「ハンバーグ!」で再びJ-POPに着地。そして「ナルコレプシー」で佳境に入りつつ、「KOIKI」で叩き起こす。その後「黄色い花」を挟み「おやすみ」でフィニッシュ。こうして見ると、2つの視点が浮かんでくる。一つは高速パンクからゆったりとしたR&Bや、フリーキー〜ロキノン〜J-POPへと、目まぐるしくテンポもテンションも変わるギャップの激しさ。そしてもう一つは「ハンバーグ!」と「黄色い花」はダメ押しというか、もしかしたら最初から無くても平気だったようにも思える。例えば「KOIKI」から「おやすみ」で終えてもそんなに問題なかったんじゃないだろうか。しかしそこに「黄色い花」を入れられる余裕、言い換えれば"KOIKI"な心持ちこそ、このバンドが成熟してきた証だろう。


JAPAN誌に載るようなバンドで今も尚期待してるのはBase Ball Bear赤い公園だ。前者はギターロック(≒ロキノン)を半ば意地になって突き詰め拡張しようとし、後者はそんなの関係無く"じぇいぽっぱー"への道を目指してる。この2バンドについては刮目するに値するかと。

(結局、最初に持ち上げてその後は徹底的に落として、新譜で再び賞賛するのってBase Ball Bearの記事と同じパターンだったな...現在が素晴らしいということこそ最も素晴らしいんだけど)

「黄色い花」
http://ja.musicplayon.com/play-touch?v=786545

「KOIKI」
https://vk.com/video-94350601_171399371

Canvas
http://ja.musicplayon.com/play-touch?v=797234

あと2016年にもなってYouTubeにMVをShort ver.しか載せないのはさすがに時代錯誤過ぎでしょ、さすがに。