あら恋とCICADAのライブに見る、冷静と情熱の間となんちゃれ

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「高速4つ打ちガー」と糾弾する季節が徐々に終わりつつも、未だに昨今のロキノンバンドのライブ映像を観るとどうも気味の悪さが抜けない。理由はハッキリしていて、殆どの客が拳を上げてoioiやってる絵面が心底苦手だからだ。自分でも過剰反応だという意識はあるが、どーーーしてもあれが北朝鮮マスゲームか何かに見えてしまってひどく滑稽に思えてくる。そして最も嫌悪する部分が、これは学生時代によくロキノン系のライブに行ってた時に感じた事だが、どうも周りが腕を上げてるから自分も浮かないように何と無くやって、周囲に盛り上がってますよーってアピールしてるように見えたことだ。お金や時間や体力(混雑してる中で2時間以上立ちっぱって結構疲れませんか?)を使ってワザワザライブハウスに来てまでそんなお遊戯を"やらされてる"とはなんて不自由な!

そんな空間に嫌気が差して以来、意識的に"マスゲーム"が起きないライブ、バンドを探すようになった。縦ノリで拳が上がるなら横ノリの音楽ならそうならないじゃんと考えてダブバンドを探してみたり、メジャーのロキノンバンドじゃなくて小さいライブハウスなら大丈夫じゃないかと思い下北沢とかのインディーバンドが出てるライブハウスに行ってみたり。初めはそういう息苦しくない雰囲気が第一の条件で選んでたが、実際曲を聴いてみても好みのバンドは結構いて、当時渋谷屋根裏によく出てたきのこ帝国を知れたのは大収穫だった。

そうしてる間に東京インディーなる言葉が流行ってきて、数バンドのライブに行ってみると、客も演者も表面的な一体感を押し付けたりしてこない自由な空間がとても心地良く、その辺りのバンドをよく観るようになった。

が、人間(というか自分は)ワガママなもので、そういうゆったりとしたライブに慣れてくると、今度はアクティブなライブを体験したくなるものだ。アクティブとは言っても例えば、お酒飲みながらゆらゆらと観るミツメよりフィジカルだけど、決してロキノン系みたいに只のスポーツ化しないライブをする、「絶妙なバランスの上に立ってる"間"の音楽」をやるバンドを求めるようになった(弁解しておくとミツメ好きです、キャップも買ってよく被ってるミツメギャル(死語)です)。そこで、そんなワガママな条件にも当てはまって特に好きな2組を挙げてみます。

あらかじめ決められた恋人たちへ

シネマティック叙情派エレクトロ・ダブユニット、略してあら恋。縦ノリがイヤになって、横ノリ=ダブのバンドを探したのがきっかけで知ったバンド。

無垢なインタールードを切り裂くような咆哮に端を発し、暴れ狂うドラム、弾き倒されるギター、全てを優しく包み込むかのようなテルミン、螺旋状に舞い上がるピアノ、と扇情的ながらも生命賛歌と言わんばかりに圧倒的な多幸感をブチかます。イントロからもう嗚咽交じりに昂ぶって腹の底から何か言葉にもならない言葉を叫ばずにはいられない。

これだけでも十分だが、何よりも自分が惹かれたのは、とても情緒的な鍵盤ハーモニカである。これが入ることで単純な躍動的な曲にはならず、アンビエント的な側面も出てきて、前述した「絶妙なバランスの上に立ってる"間"の音楽」にさせる。アガるけど落ち着く、という両義性は体感するととても気持ちいい。それに、小学校で弾いた(弾かされた?)この楽器の音色にある種の郷愁性を感じさせられる。

また、踊り狂う人、感動して目に涙を浮かべる人、圧倒されて呆然とする人、色んな人が同じライブハウスに自由に共存してるのがあら恋のライブで、客に様々な感情を植え付ける空間をつくれるバンドは稀有な存在だと思う。

「踊って泣ける」というこのバンドに付いてるフレーズが言い得て妙で、鍵盤ハーモニカが時に扇情的に、時にメランコリックに鳴り響く。そしてその音色自体がアンビエントである。それらがこのバンドの魅力であり、漢臭くも実直に活動する姿にも心打たれる。今、現存する中でいちばん好きなライブバンドだ。

CICADA

キャリアの長いあら恋に対して、こちらは今年ファーストフルアルバムを出した若手ミニマル・ポップバンド。ミニマル・ポップバンドという言葉も両義性を孕んでいておもしろい。別の言い方をすると、ヒップホップ/R&Bにジャズの意匠を凝らしつつJ-POPに落とし込んだというか。もっと簡潔に言うと「cero以降」を感じさせるバンド(何か怒られそうだな...)。個人的には偶然出会い頭の事故的に知ってそのままアルバムリピートしまくってたので2015年を象徴するバンドになりそう。

CICADAの大きな特徴は、前述したミニマルで「鑑賞」といった趣のアルバム音源と、ライブでの熱量の差だ。アルバムを先に聴いてからライブに行ったので音源通り全体的におとなしい感じなのかなと思いきや、上の映像通りに楽器隊が先に出て、後から登場したVo.城戸女史が華麗にフロウを決める。まず、アルバムを聴いた限りラップの曲は無くて全て歌モノだったので、まるでローリン・ヒルのような90's R&Bディーヴァ的振る舞いにいきなりカマされてしまった。それに加え、フィジカルに訴えかけるリズム隊が音源とはかなり異なっていて、そこにもカマされる。しかしアルバムと違うから面白くない、ではなくて、あの最高だったアルバムを更に凌駕してることに驚いた。そのまま曲間ほぼ無しで立て続けにライブが進み、当初のおとなしい感じだろうという目論見で厚着(当時2月)のまま観てたのが完全に裏目に出て、つい汗だくになるほど踊ってしまった。

その後はアルバムはもちろんリピートしまくり、ライブにもちょくちょく行くようになって、ある時ふと気づいた。あれだけ音源とはかけ離れてアレンジされたアクティブなライブでも、クールな佇まいを失ってないのはキーボードの存在が支えてるからではないかと。キーボードのコード(だよね?)の余韻が夜の雰囲気を強く想起させ、同時にアンビエントな側面をもたらしている。これがCICADAをアーバンたらしめる要因だと。更に考えると、そこに『colorful』のようなメランコリックなメロディーが乗る。更に扇情的なリズム隊が合わさる。するとあら不思議、構造的にはあら恋と似てるのではないだろうか!「しっとりブチかます」とは以前テレビに出演した時にkey.及川氏が口にしてた言葉だが、これはあら恋の「踊って泣ける」というフレーズと当たらずといえども遠からずなニュアンスじゃん!と一人勝手にコーフンしたり。

ただバカ騒ぎするだけでも、じっと鑑賞するだけでもない音楽はとても難しくてそれ故貴重だ(電子音楽とかじっとり鑑賞する系はそれはそれとして好きだけどね)。これからどんどん知名度を上げていくであろうCICADAだが、キャパが大きくなってもしっとりブチかまされ続けたい。

余談だが、対バンの多彩さも記述すべき事項だろう。ウワモノは基本2台のキーボードでほぼギターを使用しない構成は所謂ギターロックバンドとは程遠く、それ故様々なジャンルのアクトとの対バン歴がある。レコ発ではダブを基調としつつもガッツリとギターロックバンドしてないTam Tam、ツアーファイナルではトラックメイカーのLicaxxxとPARKGOLFと共演。そして何より特徴的なのは、アイドルとの対バンの多さだろう。Especiaやlyrical schoolを初め、星野みちる、校庭カメラガール、おやすみホログラム、Faint★Star等、旬なところがよりどりみどり。最近になって所謂ロックバンドとアイドルの対バンも徐々に増えてきたが、CICADAはギターロックバンドではないのを逆手に取って、積極的にアイドルとの対バンを試みてるようなのが興味深い。

(このブログを書いてる時点ではまだ発表されてないが、次のレコ発の対バンは今までの流れを考えるとヒップホップのアクトかなーと思ったり。Moe and ghostsとかTHE OTOGIBANASHI'Sとか来そうと先手取って予想...まぁそれかアイドル枠でEspeciaかね。)

あら恋の漢臭さとは対照的にクールに決めるCICADAだが、両バンド共自由に踊ったり浸ったりできる(そしてメランコリーという点でも)。その空間がとても心地良い。踊るのと浸るのは真逆のようだが、その両義性を孕んだ「絶妙なバランスの上に立ってる"間"の音楽」を「自由な空間」でやれるバンドこそが自分の考える最高のライブバンドだ。